お寺の未来ブログ

真宗大谷派の寺院マネジメントプログラム(元気なお寺づくり講座)に学ぶこと/井出悦郎

2017年12月13日

一般社団法人お寺の未来は、2014年から真宗大谷派における寺院マネジメントプログラムの開発と、宗内浸透に向けた実践をご支援しています。

「元気なお寺づくり講座」と名付けられたこのプログラムは、各地域の寺院現場に新たな活力をもたらし、一ヶ寺一ヶ寺を元気にすることを目指しています。それはつまり、宗門の活力とは元気な一ヶ寺一ヶ寺の集合体であるという理念を具現化する取り組みでもあります。
本プログラムは、住職・副住職等の寺族と門徒(檀信徒)がともに学び、各お寺のこれからを切り開く寺業計画書®を具体化する、全5回のカリキュラムで構成されています。プログラムの開催地域も少しずつ全国に広がっています。

このプログラムは2017年度から一つの大きな節目を迎えています。それは、「プログラムの講師を宗内で育成する」というものです。
テーマが寺院経営となると、仏教界の傾向として外部講師に頼りがちですが、それでは宗内に知恵として定着しません。宗内の人財が自らの言葉で翻訳・解釈し、宗内に伝えることを通じて、初めて現場に活きる形で知恵が浸透します。
宗門の根幹である人の育成について、外部の知恵を取り入れながらも外部に丸投げせず、しっかりと内製に乗り出したことは極めて本質的なチャレンジと言えるでしょう。

講師の内部育成は当初から構想し、数ヶ年度のロードマップにも組み込んでいました。

真宗大谷派

真宗大谷派では既に数名の核となる講師が誕生しており、現在は数十人規模の講師育成が既に開始されています。
講師候補者の熱意はとても高く、教学面の知性と寺院運営の知見を兼ね備える、この講師集団は日本仏教界の希望とも言えます。

真宗大谷派がなぜここまで着実にプログラムを発展させることができたか、三年間の振返りをふまえて、重要ポイントを解説します。

 

ポイント1:プログラムの理念の明確化

本プログラム創設の立役者の一人である真宗大谷派・速水馨さんは、各現場に赴き、ことあるごとにこのようにおっしゃっていました。

「宗門の活力とは、一ヶ寺一ヶ寺が元気になることです。このプログラムは、みなさんの一ヶ寺一ヶ寺が今よりももっと元気になることを後押しするものです。元気になるための根幹は教化活動です。みなさんのお寺の教化活動をさらに強化するきっかけとしてください」

一ヶ寺一ヶ寺を元気にする。その根幹には教化活動があるという本プログラムの理念は、現在もしっかりと講師陣に引き継がれています。

 

ポイント2:宗門の重要施策としての「ぶれない」継続性

寺院現場を中長期的に巻き込んでいくこのような施策を進めるためには、宗門全体の事業計画上、最優先施策としてしっかり位置付けられ、人員と予算が確保されることがとても大切です。

伝統仏教教団は議会制が多く、政権が入れ替わると事業の継続性が寸断されることが少なくありません。しかし、宗教は人であり、人づくりに関する取り組みは政権を超えて常に最優先課題であるべきです。宗門全体として最重要課題が認識され、目先のことではなく、大きなビジョンを持って宗政がなされていることが理想です。

また、施策を推進する宗門のぶれない意志に加え、推進担当者へのぶれないバックアップ体制が不可欠です。宗議会も含めた宗派行政での難しい調整も必要になりますから、施策担当者が困難な課題にも恐れず取り組める、梯子を外さない環境整備がとても大事になります。

実際、真宗大谷派では施策を担当する事務局が、月に1回程度全体状況を可視化・共有し、改善点等を導き出すPDCAを継続的に回しています。
そして、全国の教区や組を回りながら、プログラムを実施する候補地域を積極的に開拓しています。
この積極性は、事務局の熱意をバックアップする宗派行政のぶれない継続性の賜物と言えます。

 

ポイント3:宗派施策と教区をつなぐハブ機能(教区駐在教導)

真宗大谷派には「教務所長の指揮を受けて、教区の教化活動を振興するため、教区に駐在する」教区駐在教導(以下、駐在教導)という役職があります。
この役職は教区寺院から尊敬される花形ポジションでもあり、周囲から一目置かれる方が務められています。駐在教導は教区寺院の声や悩みに傾聴し、現場の清濁を併せ呑みながら教区全体をまとめていくべく尽力されています。

真宗大谷派では、各地域で寺院のイキイキとした活動をサポートするため、寺院活性化支援員という宗内の人事制度を含めたインフラを整えました。
寺院活性化支援員は元気なお寺づくり講座での講師も担い、駐在教導を中心軸に据えて育成することを目指しました。

毎年本山で行われる駐在教導研修では、元気なお寺づくり講座の趣旨を丁寧に伝える研修内容を練り、まずは全教区の駐在教導がプログラムの理解者・応援者になってもらうことを目指しました。
本プログラムは前例がないこともあり、教区内の寺院に理解を醸成していくことは大変な道のりであり、寺院現場の信頼を集める駐在教導の根回しやきめ細かい教区内寺院へのフォローなくしては実現しえなかったでしょう。

そして、現在、本プログラムの講師陣は、駐在教導を中心にして育成を進めています。
駐在教導が本来持つ、本山と寺院現場をつなぐ信頼関係に、今後は寺院経営に関する知恵・ノウハウが加わることで、「一ヶ寺一ヶ寺を元気にする」という本プログラムの理念は、実現に向けて心強い味方を得たと言えるでしょう。

 

ポイント4:危機感の強い寺院の僧俗一体による受講

本プログラムの受講寺院募集にあたっては、全ヶ寺一律受講ではなく、希望する寺院を募る「この指とまれ」方式を導入しました。
やらされ感ではなく、寺院の将来に対する健全な危機感を持ち、プログラムに主体的な意思をもって臨むことが大切です。受講寺院同士の相互作用により、学びの場に様々な気づきが生まれます。
参加者が僧侶に閉じず、寺族・門徒が一緒に学び、考えるというスタイルのため、気づきも倍増したと考えられます。

実際の受講寺院の声をご紹介します。

 

「お寺の原点回帰」

  • 私にとって、日々のお勤めをしていく「道場」という場と、自身が生活をしている場が一体となっているのが「お寺」という感覚があった。その中で、お寺の役割やはたらき、ご門徒との関係性を見失うことも多くあったのではないか。結果的に、お寺の価値、あるいは抱えている課題が整理されないままになっていたように感じる。そのことを一辺はっきりと問い直す、そんなセミナーであったように思う。
  • これまで気が付かなかった自坊の良さを知ることができ、再確認できました。また、マイナスだと思っていた部分も強みとして考えていくことが出来ました。今が、スタートラインだと思えた事により、これからの自坊の変化が楽しみになりました。先代方が守ってきたことを大事にしながら、私達が目指すお寺にしていきます。
  • 今までの自分や周りの環境にはない目線で自坊について、またお寺の存在そのものの意味・意義について考えることができ、とてもよい刺激を受けた。それによって、自分がこれから直面するであろう環境・課題などを見直し、改めて自覚や希望・不安など様々なことを浮き彫りにできた。

 

「『まずは、やってみる』という前向きな動機付け」

  • こんなことをしたらどう思われるかとか、変化のないことが安定していることではないのかなどと自分に言い訳をして行動に移せなかったが、お寺や、ご門徒さんへの思いが間違っていなければ勇気を出してやってみようと思えた。
  • 真面目にコツコツやっていればそれでいいと決めつけていたところがあったが、もっと動かねばならないという意識になったように感じる。動かねばというより、動いていい、もっと楽しいことに挑戦していいんだという事を教えていただいた。
  • 「ピンチはチャンス」と先生は具体的に丁寧に教えてくださいました。ビジョンを描く、とかお寺の無形の価値を明確にしていく事は、とても大変で、苦労しました。でも今まで気づかなかった事が見えてきました。自分の意識が変わるとそれに向かって実現させることがとても楽しくなります。こんなに違うんだと実感します。
  • 自分の中にある漠然としたものが何なのかという私が最も、知りたかった部分を知ることができ、また寺業計画の発表という場をいただくことにより、これから実際に行動に移していこうという気持ちになりました。これまでは、こういったことをしてもいいのかといった不安があったり、ほんの一部の門徒さんの反応を気にしたりでなかなか前に進めなかったものがありましたが、間違っていないと「自信」を持って前に進もうと思えるようになりました。

 

「お寺づくりをともに進める仲間を得たこと」

  • とても、とても、充実感がありました。 住職だけでなく、若院さん、門徒さん、坊守といろいろな立場の皆さんの発表を聞けて、また私も発表ができて、先生からは、厳しくも優しい意見、ストレートに皆さんからアイデアをき嬉しかったです。とても貴重な体験させていただきました。
  • 課題・問題・不安・価値・思いなどを浮き彫りにでき。また、他の寺院の発表を聞くことにより、新たな発想に気づくことができた。作成・発表したからには行動に移らないといけないという思いが強く持てた。
  • これからのお寺に関する漠然とした不安はありながら、逆にどうにかなるのではないかという甘い考えもどこかにありましたので、こういう機会を与えて頂いたことでゼロから真剣に考えることが出来ました。講師からも情報やヒントを頂けましたし、受講生のお話を聞けたことはとても貴重でした。
  • 今まで知らなかった方もセミナーでお友達になりました。その出会いが一番の宝物です。垣根のない朋友を賜りました。

 

受講寺院の多くからは、とても前向きな感想が聞かれました。
講座終了後には、教区内の有志で定期的(一年一回程度)な学び合いが行われている地域もあります。継続的な変化につながる種が、寺院の現場に埋め込まれ、根を張りはじめているのはとても喜ばしいことです。

 

ポイント5:宗派の実情に合う形でプログラムをカスタマイズ

プログラムの基礎は、一般社団法人お寺の未来が運営する未来の住職塾のカリキュラムを土台としました。
ただ、各地域の寺院現場に受け入れられるためには、宗門の実情や文脈を相当程度組み込んでいく必要がありました。

まずは、プログラムが実施される地域を事前視察して、各寺院の声に傾聴し、現場実態を把握することに努めました。
事前調査を重ねることで、異なる教区・組の事情にも対応できるよう、時間・内容等でプログラムの汎用性を高めることにつながりました。
また、寺院現場の生々しい声に触れたことは、宗派独自のケーススタディ(具体的な事例)の作成にもつながり、プログラムの質を高めることができました。

そして、講義内容には、10年に1回実施されている教勢調査のデータを効果的に組み込みました。
宗門の寺院において実際に起きている変化に着目し、政府が発行している各種統計データと組み合わせる形で、現場に役立つ示唆を抽出する努力を重ねました。
当然のことながら、宗祖の教えとのつながりも要所要所で確認し、「寺院の教化活動を強化する」という理念の具体的な展開も図りました。

プログラムの内容は、様々な知見・経験を持つ講師陣が実際に議論しながら、現場に適した内容に継続的に進化させています。今後も時代の変化に合わせながら、宗派の現場に最適化されたプログラムとして発展していくでしょう。

 

ポイント6:専門的知見を持つ外部パートナーとの連携

お寺を取り巻く外部環境は毎年大きく変化しています。このような時代環境においては、どの宗派においても大きな失敗を許容できる時間もお金もありません。「スピードを買う」という投資の意識を持ち、適切な外部パートナーを見つけることが大切です。

また、単一の宗派組織が単体でゼロから独自のプログラムを作ろうと思っても、お金も時間も高コストですし、事例やノウハウも限られ、プログラムの質を高めることはできません。寺院経営に関してノウハウを持つ外部のパートナーと共同して学習しながら取り組むことが、投資対効果の高いプログラムを作ることが可能になります。

そして、ノウハウそのものも重要ですが、宗派・現場の事情や個別性に対する理解が重要です。
宗派や寺院現場には、それぞれに特異な事情がありますので、様々な制約の中で一番効果を上げるためにともに、外部パートナーにはともに知恵を絞る姿勢が求められます。宗派や現場の個別性を切り捨て、定型的な枠組みを押し付けるのではなく、現場の意見をきっちりすくい上げ、具体的なプログラムに落とし込んでくれる第三者をパートナーにできることが理想です。

今回、真宗大谷派は、外部パートナーとして、私たちお寺の未来を選んでいただきましたが、どのようなパートナーを選ぶにせよ、上記のような特性を備えた専門家を見つけることが重要です。

 

元気なお寺づくり講座の成功要因について述べてきましたが、今後の展開においては課題も少なくありません。重要なポイントをいくつか挙げます。

  • 受講寺院への継続的なフォローアップの仕組みを確立し、「元気なお寺づくり」を後押しすること
  • 都市、過疎など、様々な地域で実践し、多様な地域性に対応できるプログラムに進化させること
  • 教区・組の伝統を引き継ぎながらも、未来への推進力を高めるため、次世代を担う若い人の受講率を高めること
  • 真宗教化センターがハブ機能となり、プログラムの実践を通じて蓄積されるお寺づくりの知恵を、宗内に循環させる仕組みを確立すること

一ヶ寺一ヶ寺を元気にするという理念の実現に向けて、ハードルは決して低くありません。
しかし、そのハードルを越えていくための車輪は推進力を高めながら着実に回り始めています。
伝統仏教界でも稀有な取り組みである、真宗大谷派の「元気なお寺づくり講座」のこれからの発展に注目です。

 

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1979年山形県生まれ、東京育ち。一般社団法人お寺の未来代表理事。東京大学文学部中国思想文化学科卒業。東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)等を経て、経営コンサルティングのICMG社では日本を代表する大手一部上場企業の経営改革、ビジョン策定・浸透、グローバル経営人材育成等、「人づくり」を切り口に経営中枢への長期支援に従事。未来の住職塾では講師、全体プログラム設計、お寺360度診断開発等を担当。近著に『住職の教科書 基礎編(上・下巻)』。