お寺の未来ブログ

「安心のお寺診断」の誕生秘話/井出悦郎(前編)

2017年8月31日

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2017年7月、「安心のお寺診断」(https://diag.omri.jp/temple/)を公開しました。
「安心のお寺10ヶ条」に基づく全108個の視点により、お寺の運営状況を自己診断できるツールです。伝統仏教寺院を対象とした、ここまでの包括的な視点で運営状況を可視化できる診断ツールは今までになかったのではと思います。

安心のお寺診断は、日本仏教界のさらなる発展を願うとともに、創業以来の5年超にわたってわたしたち一般社団法人お寺の未来を、様々な機会を通じてお育てていただいたことへの感謝をこめて、無償で公開しています。
ぜひ安心のお寺診断に多くのお寺が取り組んでいただき、自坊の未来につながる気づきと出会われることを心から願っています。

今回は、なぜ安心のお寺診断が生まれたのか、その背景をご紹介します。

時代の変化にも対応できる寺院運営の羅針盤を作りたい!
さかのぼること2012年、一般社団法人お寺の未来の未来の祖業でもある未来の住職塾を始めた頃、私は次のようなことを感じていました。

  • 環境変化が激しい時代に寺院を運営するにあたって指針となる骨太の考え方が存在せず、お寺は住職の経験と勘に大きく依存して運営されている
  • 属人化されている運営ノウハウの良い部分が形式知化され、型として伝承されていかないと、お寺は時代の変化に翻弄され続け、お寺本来の良い特長が損なわれていくのではないか
  •  特長が失われたお寺からは人々が離れ、日本仏教の魅力が世の中に伝わりにくくなるのではないか

このような問題意識を持つ中で、寺院運営のポイントが押えられた、ある程度の汎用的な羅針盤のようなものを、いつか作りたいと思うようになりました。
一つとして同じお寺はないという豊かな多様性は日本仏教の魅力ですが、お寺である以上は共通項も存在するはずです。その共通項はお寺にとっての基本であり、その基本を整えることは、お寺の基盤づくりにあたります。しっかりした基盤の上にこそ、それぞれのお寺ごとに異なる多様な独自性が花開くに違いありません。
このような考えの下、「お寺の基本が押えられた汎用的な羅針盤を具体化する」ということが長期的な研究テーマとなりました。

5年間、全国の様々なお寺を訪れ、お寺のあり方について研究を深める
しかし、いざ羅針盤を作りたいと思っても、そう簡単ではありません。私たち自身も「お寺って何?」というそもそも論がよく分かっていませんでしたし、お寺に関する公開情報もあまり存在しなかったので、まずは私たちなりにお寺というものの全体像を手触り感のある形で組み上げていくことからスタートしました。

未来の住職塾でご縁をいただいた約500のお寺をはじめ、実際に全国の数多くの寺院の現場に足を運び、多様なお寺のあり方に触れ、大勢の住職に出会ってお話しさせていただきました。

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(お寺でのインタビューの様子)

中には、いくつかのお寺のコンサルティングという形で、お寺のとても深い部分にまで触れさせていただき、お寺というものに底流する原理・原則を見つめる機会をいただくこともありました。
そして、過疎地にある寺院を対象にした研修にたずさわったり、各地域の実情に合わせた研修プログラムを作らせていただいた経験も寄与しています。

様々な機会を通じて、多くのお寺で昔からの営みが当たり前のように日々大切に営まれ、その営みを通じて地域の方と良好な関係を築かれている場面に接することができた経験は、何よりも貴重なものでした。
あらゆる方面で世俗化が劇的に進む時代の中で、聖性とは何か、宗教とは何か、仏教とは何かを、各地域の実情に合わせた形で追求されている住職や寺族の皆さんの姿に心を打たれることも数多くあり、「良き営みを重ねられているお寺を一つでも次代につなげていくことに少しでも貢献したい」という思いはいっそう強まりました。

5年間にわたって全国のお寺を訪ね続け、現場実態をつぶさに見させていただくとともに、ご縁をいただいた多くのお寺からのお悩み相談にも応じ、様々な具体的な提案も行ないました。中にはご提案した内容を寺院の現場でともに実践させていただくこともありました。
お寺のあり方に関する私たちの研究は机上の空論ではなく、とても実践的なものだったと思いますし、寺院の現場に起きている時代の変化もひしひしと感じることができました。

そして、研究の成果は「安心のお寺10ヶ条」として具体化しました。
「安心のお寺10ヶ条」を具体化するにあたっては、社会環境変化、生活者視点、お寺の本来機能という3つの考え方を重視しました。

考え方1:受け手である生活者の視点を大切にする
お寺と関わり始めた頃、強く感じていた違和感として、次のようなものがありました。

  • 「檀家」という一言で様々なことを括りすぎており、かつ「イエ」として見る志向性が極めて強く、檀信徒一人ひとりの多様性に目が向いていない
  • お寺側の提供者論理が強すぎて、檀信徒をはじめとした受け手の視点で物事を考えることがとても苦手である

「檀家」という呼称は、お寺側の都合で名づけている名札にすぎず、有縁の人は、檀信徒以前に一人の生活者です。檀信徒の多くはお寺について考えることは日常生活の中で少ないと思われ、お寺のことよりも、日常生活を成り立たせることや、その日常に起こる喜怒哀楽に関心が向いています。
檀信徒をはじめとした有縁の生活者の日常がどのようなもので、どのような思いで過ごされているか。日常をより豊かに安心して過ごせるためにお寺ができることは何なのか。お寺が価値ある存在として次代に継承されていくためには、受け手である生活者視点に立ったお寺づくりがきわめて大切になるでしょう。

「安心のお寺10ヶ条」の検討に際しては、これまで全国230ヶ寺以上の約3,000名の生活者を対象に実施したお寺360度診断®のデータを参考に、生活者が望むお寺とはどのようなものなのかという点を考慮に入れて検討を進めました。

考え方2:お寺を取り巻く社会環境変化に向き合う
日本社会に存在する限り、どのお寺も社会環境の変化とは無縁ではありません。特に日本のお寺は地域コミュニティと密接な関係にありますから、社会の変化には常にさらされていると言えます。加速度的に社会の変化が速まる中、社会の変化をしっかりと見据えることはとても大切でしょう。
特に、考え方1にある生活者視点とも重なりますが、時代環境の変化によって、全国の生活者のライフスタイルや価値観がどのように変わっているかについて認識を深める必要があります。

「安心のお寺10ヶ条」の具体化においては、一般社団法人お寺の未来が全国の生活者1万人を対象に実施した寺院・僧侶に関する意識調査や、公開されている様々な統計データ(人口動態、世帯、経済環境など)を参考に、外部環境の変化をしっかり押さえた上で、これからのお寺に求められる要件を検討しました。

考え方3:お寺の本来機能を大切にする
社会環境変化が速い時代に、受け手の生活者に受け入れられようとなりふり構わず時流適合を進めすぎると、お寺本来の良さを失いかねません。
逆説的ですが、変化が速い時代だからこそ、奇抜性・新規性にかたよらず、お寺が伝統的に培ってきている本来機能を大切にしていくことも重要です。過去からの良いものはしっかりと継承し、現代的な文脈も意識しながら磨き上げていくことが大切になります。

全国の様々なお寺での営みを現場で拝見しつつ、時には私たちもその営みを経験することで、様々な営みがお寺をどのように支え、有縁の人との関係を創り上げていくかというメカニズムも観察しました。お寺をお寺たらしめている様々な営みを、「安心のお寺10ヶ条」ではお寺の機能としてしっかり位置づけることを目指しました。

(後編に続く)

安心のお寺診断の概要 →http://www.oteranomirai.or.jp/diag/
安心のお寺診断へのリンク →https://diag.omri.jp/temple/