お寺の未来ブログ

未来の住職塾の講師をご紹介します(2) 『井出悦郎』 〔前編〕

2016年11月18日

来年4月より開講する未来の住職塾第六期の願書受付が始まりました。前後編に渡り、講師をご紹介をさせていただきます。

%e4%ba%95%e5%87%ba%e6%82%a6%e9%83%8e2井出悦郎
1979年山形県生まれ、東京育ち。一般社団法人お寺の未来代表理事。東京大学文学部中国思想文化学科卒業。東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)等を経て、経営コンサルティングのICMG社では日本を代表する大手一部上場企業の経営改革、ビジョン策定・浸透、グローバル経営人材育成等、「人づくり」を切り口に経営中枢への長期支援に従事。未来の住職塾では講師、全体プログラム設計、お寺360度診断開発等を担当。近著に『住職の教科書 基礎編(上・下巻)』。

松本紹圭・井出悦郎 共著『お寺の教科書 -未来の住職塾が開く、これからのお寺の100年-』(徳間書店)より
 
◇◇◇
 
 みなさん、こんにちは。井出悦郎と申します。正直に申しあげますと、私は最近まで仏教・お寺とは無縁の人生を送ってきました。むしろ、仏教・お寺とは真逆で、銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングというように、資本主義の最前線を歩んできました。そのような私が何故、未来の住職塾に取り組むことになったのか、その歩みをつづらせていただきます。
 私は東京のごく普通の家庭に生まれ、仏教とは全く無縁で、宗教そのものとも無縁のまま育ちました。仏教・お寺というと、通っていた小学校の裏にお寺がありましたが、いつも門を閉めていて、開いている時でもその門をくぐるにはとても勇気のいるオーラが放たれていたことを覚えています。結局一度もそのお寺の門をくぐることはなく、小学校を卒業しました。宗教と言えば唯一の記憶として、高校生の頃に父親が役所の仕事でオウム真理教の対策業務を担当していたこともあり、一時期、家の中に宗教関係の書籍が多くなったことを覚えています。しかし、高く積まれた書籍の山に何とも言えないいかがわしさを当時は感じ、全く手を伸ばすことはありませんでした。
 
 その一方で、中高生の頃から「良い生き方とは何か?」という問題意識を持ち、大学も文学部で中国哲学を専攻しました。当時は哲学で一生食べていけたらよいと思い、教授からも「君は文章が上手い。物書きになったらどうだ」とすすめられたこともありました。しかし、大学という時間が止まった場所で、机上で抽象的に人間を考察するのは性に合わず、社会という現場・現実で人間というものを探求したいという思いをおさえられず、大学卒業後は就職することにしました。
 塾長の松本さんとの関係を話しますと、大学四年生の頃に二人とも留年し、お互い友達が少なかったからなのか、赤門をくぐると「今日は大学に来てる?」と、とりあえず携帯電話を鳴らす日々を二人で送っていました。これだけならどこにでもある普通の大学生活ですが、二人で会えば、これからの日本社会のあり方や、現代社会における「思想」というものの影響・役割とか、青臭い議論を当時からしていました。そして、5月のある日に、二人で根津神社の境内をぶらぶら歩きながら、松本さんから卒業後の進路の相談を受けました。その日のことは不思議と今もよく覚えています。その一ヶ月くらい前からでしょうか、彼の口から仏教やお寺に関する単語が多く出るようになっていました。しかし、ごにょごにょと煮え切らない彼の言動が気になり、「そんなに仏教が気になるのなら、お寺に入ってみればいいじゃないか」と、私は無責任に彼に言い放ちました。境内の欄干に腰を下ろして鯉が泳ぐ池を眺めながらそう言った時、彼の目が見開き、まばたきが止まったように見えました。その一言が彼の背中を押すことになったというのは後々になって知るのですが、その後の松本さんの活躍を見ると、あの時に彼の背中を押せて本当によかったと思います。そして、今はその彼と行動をともにすることになったと思うと、ご縁というものの不思議な力を感じざるを得ません。
 
 さて、大学卒業後は、松本さんの仏門に対して、私は大手門をくぐり、銀行に入りました。就職当時はバブル崩壊後の不良債権問題の真っ只中で、「何故人間がこうもお金に翻弄されるのか」という点が引っかかり、お金のことを知りたいと思い、公益性の高さから銀行を選びました。銀行では事業金融だけではなく、金融機関取引という金融の根幹に携わる機会にも恵まれ、それらを通じて「世の中にお金は余り過ぎていて、高度成長期のようにお金自体が世の中を駆動する大きなパワーを持つ時代は徐々に終わりに近づいている」ということを感じました。また、デリバティブ(高度な金融技術を組み込んだ金融商品)が氾濫する「金融遊び」にも違和感を感じ、将来に先送りされたリスクがいつかどこかで爆発するのではないかという直観もあり、リーマンショックに繋がる嫌な匂いも感じていました。
 
 そして2005年当時、「人間・社会を動かすこれからの原理とは何か?」という問いの中で、インターネット、中でも世代と地理・空間を越えたソーシャルメディアに社会のコミュニケーションの基盤(インフラ)としての可能性を感じ、グリー社に転職しました。昨今のFacebookや様々なソーシャルメディアの台頭を見ると、当時感じた可能性は間違っていなかったと思います。しかし、ほどなく同社の方向性の転換に違和感を感じる一方、インターネットの世界が人の知恵に依存して発展し、社会に大きな影響を与えている現場に日々触れることで、これからの時代は人の知恵や意欲が社会の原動力に占める割合がより大きくなっていくということを直感しました。
 グリー社での経験を通じ、「一人ひとりが活き活きと幸せに生き、働ける、組織や社会創り」というテーマが自分なりの軸として形作られてきたことを契機に、その後は、幅広く組織の原理を探求できることから経営コンサルティングを志向しました。その中でも、人の智恵・意欲から生まれる組織の「無形の価値」のマネジメントを中核の考え方に持つICMG社という経営コンサルティングファームに入りました。
 
 「無形の価値」という考えは、銀行当時に様々な取引先の財務諸表を見ながら、数字には表れないものの企業業績を支える何か別の力があるに違いないと感じていた問題意識と合致し、蒙を啓かされました。「無形の価値」という考え方は、お寺の未来を切り拓いていくための不可欠な要素として、未来の住職塾のプログラムにもふんだんに盛り込んでおり、受講生の方々からも高い評価をいただいています。私がふらふらと寄り道するキャリアを歩んだことで、未来の住職塾がユニークな価値を持つプログラムになったことを思うと、ただただ問題意識の流れに身を任せてきたことが、このようなご縁に繋がっている不思議さを感じざるを得ません。

(後編に続きます)

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